『Mr.インクレディブル』が世知辛かった話
続編の公開を控える『Mr.インクレディブル』。機会があったので観直してみたら、ギャグもアクションもなかなか痛快で楽しめたので、このタイミングで復習できたのはとても得だった!
が、公開当時に見た印象とかなり差があったのが印象に残ってしまった。
幼げな記憶では、スーパーヒーロー家族が一致団結して悪党から街を救うヒーロー映画だった。
もちろん、ここの戦闘描写やクライマックスの共同戦線は盛り上がるし、ラストの終わり方もそれらしい爽やかさだ。
しかし描かれていたのはヒーロー達にとってあまりに世知辛い世の中だった。
派手な救助活動が問題視されたために、ヒーローの引退を余儀なくされ政府の監視下で生活している。
(この状況を作り出す発端になった事件が、自殺を力づくで止めたことだというのもひどい皮肉だ)
主人公は家族を養うために売り上げ重視の保険会社で働き、ヒーロー時代には遺憾無く発揮していた超能力も善意も、世間から抑圧された環境で生きている。
超能力を持て余した家族関係は決してうまくいっているとは言えず、喧嘩や争いが絶えない。
そんな日々を変えたのはオファーを受けた秘密裏にヒーロー活動を行うという裏稼業だった。
主人公は自分が望んでいた仕事に邁進し、家族の歯車も次第に噛み合って行く…。
観た人はご存知の通り、この仕事は敵の罠であり、ヒーローを超える超兵器の開発に利用されていただけだった。あげく奥さんには浮気を疑われる。辛い!
しかも、その首謀者は主人公が昔テキトーにあしらったせいで拗らせまくったヒーローオタクだった!気持ち悪い!
自分が最強のヒーローとしてデビューするために誰にも勝てない敵を作り出し、自分の制御下に置くことで自作自演のショーを展開しようとしていた!クソ野郎だ!
しかもかつての同僚であるヒーロー達は兵器開発の実験台にされて殺されていた!なんてことだ!
結果として街は救われ、クソオタクはギッタンギッタンにされ、家族は平穏な暮らしとヒーローとしてのアイデンティティを手に入れるので、めでたしめでたし。
特に後半はポップに展開されていくので、基本は愉快な映画として楽しめたが、構造が残酷で皮肉が効いている。
続編では人気の格差というこれまた世知辛い状況に立ち向かわなきゃ行けなさそうだが、インクレディブルなら強い意志と腕力でどうにかしてくれるだろう。
なぜかリリース時に買っていたDVDには本編にはほとんど登場しないヒーロー達のプロフィールとボイスデータが収録されていた記憶がある。
個性豊かで非常に面白かっただけに、彼らの多くがマントやクソオタクのせいで死んでいったかと思うと余計世知辛い。
思えば、ディズニーやピクサーの作品は攻めた環境や構造の話が少なくない気がしてきた。
今後も意識的に観れば、ヒット作連発のエンタメパワーの片鱗が見えてくるかもしれない。